基本情報
構造
- 分子式
- 糖タンパク質(αおよびβサブユニット)
- 分子量
- 約36,700 g/mol
- 分類
- 性腺刺激ホルモン(LH様作用)
性質
- 投与経路
- 注射(皮下または筋肉内)
- 作用機序
- LH受容体への直接結合・刺激
- 半減期
- 約24〜36時間(二相性) [1]
- 主な作用
- 精巣内テストステロン産生の維持・促進
歴史
誕生と医療用途
hCG(human chorionic gonadotropin)は、妊娠初期の女性の胎盤で産生されるホルモンです。1920年代に発見され、その後尿から抽出・精製されるようになりました。医療現場では、男性の停留精巣や低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の治療、および不妊治療における排卵誘発に長年使用されてきました。[1][2]
ボディビルにおける利用
アナボリックステロイド(AAS)の使用に伴う精巣萎縮の予防、および内因性テストステロン産生能力の維持を目的として利用されることがあります。特に、長期サイクルの際、精巣が長期間「休止」状態になるのを防ぐための補助的な選択肢とされています。[3]
特徴とリスク
特徴
hCGの最大の特徴は、体内で黄体形成ホルモン(LH)の類似物質として働き、精巣を直接刺激する点にあります。
- 精巣機能の維持: AASの使用によりHPTA(視床下部-下垂体-性腺軸)が抑制されると、下垂体からのLH分泌が減少し、精巣内のライディッヒ細胞が萎縮します。hCGはLHの代わりに受容体に結合し、ライディッヒ細胞を活性化させることで、精巣内のテストステロン濃度を維持します。[1][3]
- 回復の迅速化への寄与: サイクル中にhCGを使用し精巣を活動状態に保っておくことで、サイクル終了後のPCT(ポストサイクルセラピー)において、自前のLHが戻ってきた際の反応性を維持できる可能性が示唆されています。[3]
リスク
HPTAへの抑制作用
hCGは外来性の性腺刺激ホルモンであり、視床下部や下垂体に対してはネガティブフィードバック(抑制)として働きます。そのため、PCTの「最中」に使用すると、自身のLH産生の回復を妨げてしまう可能性があります。使用タイミングには注意が必要です。[1]
エストロゲン上昇と女性化乳房
hCGは精巣内でのアロマターゼ(芳香化酵素)活性を高める可能性があるため、テストステロンとともにエストラジオールの濃度も上昇させることがあります。また、hCGが乳腺組織の受容体に作用して女性化乳房を引き起こす可能性も理論的に指摘されています。[1][4]
感受性の低下(ダウンレギュレーション)
極めて高用量を長期間使用し続けると、精巣内のLH受容体の感受性が低下し、反応しにくくなるリスクが指摘されています。そのため、現代的な手法では少量頻回投与が検討されることが多いです。[3]
競技規制上の扱い
WADA禁止表では、hCGおよび他のゴナドトロピンは「S2. ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」に該当し、男性競技者においてのみ、競技会時・競技会外ともに禁止されています。[5]
出典
- DailyMed: PREGNYL - chorionic gonadotropin kit (FDA Label) (DailyMed / NLM / Overview) ↩
- Ascoli M, Fanelli F, Segaloff DL. The lutropin/choriogonadotropin receptor, a 2002 perspective. Endocr Rev. 2002;23(2):141-174. (DOI / Overview) ↩
- Coviello AD, et al. Low-dose human chorionic gonadotropin maintains intratesticular testosterone in normal men with testosterone-induced gonadotropin suppression. J Clin Endocrinol Metab. 2005;90(5):2595-2602. (PubMed / NLM / Overview) ↩
- Carlson HE, et al. Presence of luteinizing hormone/human chorionic gonadotropin receptors in male breast tissues. J Clin Endocrinol Metab. 2004;89(8):4119-4123. (DOI / Overview) ↩
- World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview) ↩