基本情報
構造
- 分子式
- C18H22O2
- 分子量
- 270.37 g/mol [1]
- 主な構造修飾
- 19-ノル、C9, C11二重結合
性質
歴史
誕生
トレンボロン(Trenbolone)は、1963年に開発された強力な19-ノル系アナボリックステロイド(AAS)です。当初からその驚異的な同化作用が注目されていました。[2][4]
医療・獣医学
人間用の医療用医薬品としては、かつてフランスで「パラボラン(ヘキサヒドロベンジルカルボナート)」として製造されていましたが、1997年に製造中止となりました。現在は、主に牛などの家畜の食肉生産性を高めるための獣医用医薬品(フィナプリックス等)として利用されています。米国FDAは、トレンボロンを人間用としては一度も承認していません。[2][5]
ボディビル
その圧倒的な同化およびアンドロゲン作用により、ボディビル競技者の間では「最強のステロイド」の一つと見なされています。筋肉の密度、硬さ、および筋力を劇的に向上させ、さらに脂肪燃焼効果も併せ持つため、減量期と増量期のどちらでも多用されます。[2]
特徴とリスク
特徴
トレンボロンは、ナンドロロンの炭素9位と11位に二重結合を導入した構造を持ちます。
- 高いアンドロゲン受容体結合能: テストステロンの約3倍の結合親和性を持ち、強力なタンパク同化指令を出します。[2][4]
- アロマターゼ耐性: 化学構造上、エストロゲンに一切変換されません。そのため、水分貯留を伴わない極めて「ドライ」な筋肥大を可能にします。[2]
- 栄養効率の向上: 摂取したタンパク質やカロリーを、より効率的に筋肉組織の構築へ振り向ける能力(フィード効率の向上)に長けています。[2][4]
リスク
強力な自己産生抑制
極めて低用量でも、内因性テストステロンの産生を強力かつ迅速にシャットダウンします。サイクル後の回復(PCT)は非常に困難を極めることが多いです。[2]
精神的な副作用
「トレン・レイジ(Tren Rage)」と呼ばれる激しい焦燥感、攻撃性、不安、不眠、悪夢などの精神的な不安定さを引き起こすことが知られています。これはトレンボロン特有の、中枢神経系への強い刺激に関連していると考えられています。[2]
特有の生理的反応
激しい寝汗や、注射直後に激しく咳き込む「トレン・カーフ(Tren Cough)」、心肺機能への負担(持久力の低下)などが報告されています。また、17β-トレンボロンはプロゲスチン受容体への結合が示されており、エストロゲン変換がないにもかかわらず女性化乳房を引き起こすリスクがあります。[2][3]
腎臓・肝臓への負担
他のステロイドよりも内臓への負担が大きいとされており、尿の色の変化や腎機能への影響を懸念するユーザーも多いです。[2][5]
競技規制上の扱い
WADA禁止表では、トレンボロンはS1のアナボリック薬に該当し、競技会時・競技会外ともに禁止されています。[6]
出典
- PubChem: Trenbolone (PubChem / NCBI / Overview) ↩
- Kicman AT. Pharmacology of anabolic steroids (British Journal of Pharmacology / 2008 / Overview) ↩
- Bauer ER, et al. Characterisation of the affinity of different anabolics and synthetic hormones to the human androgen receptor, human sex hormone binding globulin and to the bovine progestin receptor. APMIS. 2000;108(12):838-846. (PubMed / NLM / 2000 / Overview) ↩
- Neumann F. Pharmacological and endocrinological studies on anabolic agents. Environ Qual Saf Suppl. 1976;(5):253-264. (PubMed / NLM / Overview) ↩
- LiverTox: Androgenic Steroids (NCBI Bookshelf / Overview) ↩
- World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview) ↩