基本情報
構造
- 分子式
- C28H44O3
- 分子量
- 428.65 g/mol [1]
- エステル
- デカン酸
- 主な構造修飾
- 19-ノルテストステロンの17β位エステル化
性質
歴史
誕生
ナンドロロンデカン酸エステル(Nandrolone Decanoate)は、1960年代初頭にオルガノン社によって開発された19-ノル系のアナボリックステロイド(AAS)です。「デカ・デュラボリン(Deca-Durabolin)」の商品名で臨床に導入されました。[3]
医療
重度の貧血(慢性腎不全に伴うもの)、閉経後の骨粗鬆症、乳がんの補助療法、およびHIV/AIDSや慢性疾患に関連する消耗症の治療を目的として、多くの国で承認されてきました。その優れた同化作用と比較的低いアンドロゲン副作用から、長期的な補充療法に適した薬剤として重宝されてきました。[3][4][5]
ボディビル
1960年代から現在に至るまで、バルクアップ(筋量増加)サイクルの定番として君臨しています。テストステロンやダイアナボルと組み合わせる「Deca/Test/Dbolスタック」は、ボディビル史上最も有名なスタックの一つです。また、関節痛を和らげる効果があることでも知られています。[2]
特徴とリスク
特徴
ナンドロロンは、テストステロンの19位の炭素原子を取り除いた(19-ノル)構造を持ちます。
- 高い同化・低アンドロゲン比: アンドロゲン受容体への結合親和性は高いものの、体内(特に前立腺や頭皮)で5α還元酵素によって、より活性の低いジヒドロナンドロロン(DHN)に変換されるため、アンドロゲン副作用が抑えられるという特徴があります。[2]
- 関節の保護: 関節腔内での水分貯留を促すことや、コラーゲン合成および骨ミネラル含有量を増加させることにより、関節の痛みを緩和する効果が期待できます。[2]
- 低いアロマターゼ活性: テストステロンの約20%程度の効率でしかエストロゲンに変換されません。そのため、エストロゲン由来の副作用(水分貯留や女性化乳房)はテストステロンよりも発生しにくいとされています。[2]
リスク
強力な自己産生抑制 (Deca Dick)
極めて低い用量(例えば100mgの単回投与)でも、内因性テストステロンの産生をほぼ完全にシャットダウンします。これにより、性欲減退や勃起不全(通称:デカ・ディック)を引き起こすことがあり、通常はテストステロン製剤との併用が必須とされます。[2]
プロゲスチン作用
ナンドロロン自体がプロゲステロン受容体に対しても強い親和性を持っています。プロゲスチン作用はエストロゲンの作用を増強させるため、アロマターゼ活性が低いにもかかわらず、女性化乳房が生じる可能性があります。[2]
長い検出期間と残留
非常に脂溶性が高く、デカン酸エステルとしての半減期も長いため、体内からの排出に時間がかかります。競技会でのドーピング検査においては、使用中止から1年以上経過しても代謝物が検出されるリスクがあります。[2]
心血管系への影響
HDLコレステロールの減少などの脂質プロファイルの悪化が報告されており、長期的には心血管疾患のリスクとなります。[4][5]
競技規制上の扱い
WADA禁止表では、ナンドロロンデカン酸エステルはS1のアナボリック薬に該当し、競技会時・競技会外ともに禁止されています。[6]
出典
- PubChem: Nandrolone decanoate (PubChem / NCBI / Overview) ↩
- Kicman AT. Pharmacology of anabolic steroids (British Journal of Pharmacology / 2008 / Overview) ↩
- Hemmersbach P, et al. Nandrolone: a review of its pharmacology and therapeutic use. Drugs. 1995;49(1):19-32. (DOI / Overview) ↩
- Pan MM, et al. Beyond Testosterone: Anabolic-Androgenic Steroids in the Treatment of Sarcopenia and Low Bone Mineral Density. Sex Med Rev. 2024;12(1):124-135. (DOI / Overview) ↩
- DailyMed: Nandrolone Decanoate injection label (DailyMed / NLM / Overview) ↩
- World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview) ↩