基本情報
構造
- 分子式
- C20H27ClO2
- 分子量
- 334.88 g/mol [1]
- 主な構造修飾
- 17α-メチル、C4-クロロ、C1-2二重結合テストステロン
性質
歴史
誕生
クロロデヒドロメチルテストステロン(Chlorodehydromethyltestosterone / DHCMT)は、1960年代に東ドイツ(ドイツ民主共和国)のイェーナファーム社によって開発されました。「オーラル・トゥリナボル(Oral Turinabol)」の商品名で知られ、東ドイツの国家的なドーピングプログラム(ステート・プラン14.25)において中心的な役割を果たした薬剤として歴史に名を残しています。[2][3][4]
医療
かつては、怪我や手術後の回復促進、骨粗鬆症、筋消耗疾患の治療などに用いられていました。アンドロゲン副作用を抑えつつ、確実なタンパク同化作用を得られることから、医療現場でも有用な薬剤とされていましたが、1994年に製造が中止されました。[2]
ボディビル・スポーツ
東ドイツのオリンピック選手たちに長年投与され、数多くのメダル獲得に寄与したことが後の調査で判明しています。ボディビルにおいては、水分貯留を伴わない「クリーン」な筋量増加が可能であり、かつSHBGを減少させる効果があるため、他の薬剤のスタックベースとしても人気があります。[2]
特徴とリスク
特徴
本物質は、ダイアナボル(メタンドロステノロン)の構造に、クロステボルの特徴である4位の塩素原子を追加したものです。
- 完璧な同化・アンドロゲン分離の追求: 開発当初、アンドロゲン作用を極限まで排除し、同化作用のみを抽出することを目的に設計されました。そのため、理論上のAARは100対0(またはそれに近い極めて低いアンドロゲン性)とされています。[2]
- エストロゲン変換なし: 4位の塩素原子によりアロマターゼによる変換を完全に防いでいます。女性化乳房や強い水分貯留の心配がありません。[2]
- SHBGの低減: 血中の性ホルモン結合グロブリン(SHBG)を減少させ、他のステロイド(特にテストステロン)の遊離濃度を高める働きがあります。[2]
リスク
肝毒性
17αアルキル化(17aa)されているため、肝臓への負担があります。ただし、同等量の他の経口ステロイドと比較すると、肝毒性は比較的穏やかであるとされています。[2][5]
血中脂質への影響
他の経口ステロイドと同様、HDLコレステロールを減少させ、LDLコレステロールを増加させる傾向があります。心血管系へのリスク管理が必要です。[2]
自己産生の抑制
アンドロゲン性が低いとはいえ、外因性の投与はHPTA(視床下部・下垂体・精巣軸)を抑制し、内因性テストステロンの産生を低下させます。[2]
血液凝固への影響
高用量の使用により、血液の凝固能力を低下させる(出血しやすくなる)可能性が示唆されています。
競技規制上の扱い
WADA禁止表では、クロロデヒドロメチルテストステロンはS1のアナボリック薬に該当し、競技会時・競技会外ともに禁止されています。[4]
出典
- PubChem: Chlorodehydromethyltestosterone (PubChem / NCBI / Overview) ↩
- Kicman AT. Pharmacology of anabolic steroids (British Journal of Pharmacology / 2008 / Overview) ↩
- Sobolevsky T, Rodchenkov G. Detection and mass spectrometric characterization of novel long-term dehydrochloromethyltestosterone metabolites in human urine. J Steroid Biochem Mol Biol. 2012;128(3-5):121-127. (DOI / Overview) ↩
- World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview) ↩
- LiverTox: Androgenic Steroids (NCBI Bookshelf / Overview) ↩