基本情報
構造
- 分子式
- C20H29FO3
- 分子量
- 336.44 g/mol [1]
- 主な構造修飾
- 17α-メチル、9α-フルオロ、11β-ヒドロキシテストステロン
性質
歴史
誕生
フルオキシメステロン(Fluoxymesterone)は、1956年にアップジョン社(現在のファイザー社)によって開発された極めて強力な経口アナボリックステロイド(AAS)です。「ハロテスチン(Halotestin)」の商品名で広く知られています。[1][3]
医療
男性性腺機能低下症の補充療法、男性の思春期遅延、および閉経後女性の進行性乳がんの治療などを目的としてFDAに承認されました。その強力なアンドロゲン作用により、特定のホルモン依存性疾患の治療において重要な役割を果たしてきました。[2][3]
ボディビル・パワー競技
筋量(体重)を増やさずに筋力のみを劇的に向上させる性質があるため、パワーリフティングやウェイトリフティング、格闘技などの体重制限がある競技者の間で好まれてきました。また、ボディビルではコンテスト直前に筋肉の「密度」と「硬さ」を極限まで高めるために用いられます。[2]
特徴とリスク
特徴
フルオキシメステロンは、メチルテストステロンの構造に9位のフッ素原子と11位の水酸基を追加したものです。
- 驚異的な同化・アンドロゲン活性: 理論上の同化活性はテストステロンの19倍、アンドロゲン活性は8.5倍に達します。これにより、爆発的な筋力の向上と、攻撃性の高まりをもたらします。[2]
- アロマターゼ耐性: 11β-ヒドロキシ基の存在により、アロマターゼによるエストロゲンへの変換を完全に防いでいます。水分貯留や女性化乳房のリスクがありません。[2]
- 赤血球産生の強力な刺激: 他のステロイドと比較しても赤血球産生を促す能力が非常に高く、持久力やスタミナの向上に寄与します。[2][3]
リスク
極めて高い肝毒性
17αアルキル化(17aa)されていることに加え、その化学構造から肝臓への負担が極めて重い薬剤として知られています。長期間の使用は深刻な肝機能障害を引き起こすリスクがあるため、使用期間は通常4週間以内に厳格に制限されます。[2][4]
血中脂質と心血管系への悪影響
HDLコレステロールを著しく減少させ、血圧を上昇させる傾向が非常に強いです。心血管系へのストレスは経口ステロイドの中でも最大級です。[2]
強いアンドロゲン副作用
アンドロゲン活性が極めて高いため、重度のニキビ、多毛、男性型脱毛(MPB)の加速などが頻繁に見られます。特に女性への投与は、少量であっても不可逆的な男性化を招く危険性が非常に高いです。[2][3]
精神的な副作用
「ハロー・レイジ」とも呼ばれる、極度の攻撃性、焦燥感、気分の変動を引き起こすことがあります。競技における闘争心を高める目的で使用されることもありますが、社会生活に支障をきたすリスクがあります。[2]
競技規制上の扱い
WADA禁止表では、フルオキシメステロンはS1のアナボリック薬に該当し、競技会時・競技会外ともに禁止されています。[5]
出典
- PubChem: Fluoxymesterone (PubChem / NCBI / Overview) ↩
- Kicman AT. Pharmacology of anabolic steroids (British Journal of Pharmacology / 2008 / Overview) ↩
- DailyMed: HALOTESTIN - fluoxymesterone tablet (FDA Label) (DailyMed / NLM / Overview) ↩
- LiverTox: Androgenic Steroids (NCBI Bookshelf / Overview) ↩
- World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview) ↩