基本情報
構造
- 分子式
- C20H24ClN3O4S
- 分子量
- 437.9 g/mol
- 分類
- Rev-ErbA作動薬(代謝調整系化合物)
性質
- 投与経路
- 経口(バイオアベイラビリティは極めて低い)[1]
- 作用機序
- 核内受容体Rev-ErbAへの結合による概日リズムと代謝の制御
- 主な作用
- 基礎代謝の向上、持久力の増加、脂質代謝の改善
歴史
誕生
ステナボリック(Stenabolic、開発コード:SR9009)は、スクリプス研究所(The Scripps Research Institute)のトーマス・バリス教授によって開発された研究用化合物です。主に「概日リズム(体内時計)」と「代謝」の関係を解明するためのツールとして開発されました。[1][3]
研究成果
動物実験において、SR9009を投与されたマウスは、運動をしていない状態でも骨格筋のミトコンドリア数が増加し、走行距離が50%以上向上するという劇的な結果が示されました。このことから「運動の恩恵を模倣する薬剤(Exercise in a pill)」の候補として、抗肥満薬や心血管疾患の治療薬としての可能性が注目されました。[3]
ボディビル
その「脂肪燃焼」と「持久力向上」の効果が注目され、SNSやインターネット販売を通じてフィットネスコミュニティに広まりました。しかし、人間における臨床試験データは極めて限られており、法的には「研究用試薬」の段階に留まっています。[2]
特徴とリスク
特徴
ステナボリックの最大の特徴は、体内時計を司る核内受容体Rev-ErbAを活性化することで、代謝のスイッチを「運動モード」に切り替える点にあります。
- ミトコンドリアの増加: 筋肉細胞におけるミトコンドリアの生成を促進し、酸素利用能力とスタミナを向上させます。[3]
- 脂質と糖の代謝向上: 脂肪燃焼効率を高め、インスリン感受性を改善する効果が動物実験で確認されています。[3]
- 概日リズムの調整: 体内時計をリセットし、睡眠の質や日中の覚醒レベルに影響を与える可能性があります。
- 経口吸収性の低さ: 最大の欠点として、経口摂取時のバイオアベイラビリティ(血中移行率)が極めて低い(約2〜3%程度)ことが指摘されており、サプリメントとしての実効性には疑問の声もあります。[1]
リスク
ヒトデータの欠如
動物実験での有効性は示されていますが、人間に対する安全性や副作用、適切な投与量については、正式な臨床試験による裏付けがほとんどありません。
睡眠障害のリスク
概日リズムに直接干渉するため、不適切なタイミングでの摂取は不眠や睡眠の質の低下を招く恐れがあります。
未承認薬としての不確実性
正式な医薬品として承認されていないため、流通している製品の純度や含有量、不純物の混入リスクが非常に高い状態にあります。
長期的影響の不明さ
長期間の使用が内分泌系や神経系にどのような影響を与えるかは全く解明されていません。
競技規制上の扱い
WADA禁止表では、ステナボリック(SR9009)は「S4. ホルモン調節薬および代謝調節薬」のカテゴリに含まれる「Rev-ErbA作動薬(例:SR9009)」として、競技会時・競技会外ともに禁止されています。検知技術も確立されており、ドーピング検査での摘発事例も報告されています。[4]
出典
- PubChem: SR9009 (PubChem / NCBI / Overview) ↩
- Solt LA, et al. Regulation of circadian behaviour and metabolism by synthetic REV-ERB agonists. Nature. 2012;485(7396):62-68. (DOI / Overview) ↩
- Woldt E, et al. Rev-erb-alpha modulates skeletal muscle oxidative capacity and mitochondrial biogenesis and determines endurance capacity. Nature Medicine. 2013;19(8):1039-1046. (DOI / Overview) ↩
- World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview) ↩